統合失調症は、日常生活に様々な影響を与える精神疾患の1つですが、仕事への影響も大きいものです。
このコラムでは、統合失調症の方が仕事を選ぶ際のポイントだけでなく、向いている仕事や向いていない仕事についても解説しています。統合失調症を抱える方やそのご家族、統合失調症に興味・関心のある方は、このコラムを参考にしてください。
統合失調症でも働けるのか
統合失調症であっても一定の条件が整い、「寛解期」の状態であると主治医が判断できれば就労は可能です。寛解期とは、これまでみられていた症状の重症度が軽度になるかもしくは消失し、情緒面が安定しており、社会的な活動が可能な状態をいいます。
寛解に至るまでの間に4つの病期を経なければなりません。多くの患者は病気の前触れのサインが現われる前兆期、陽性症状が目立つ急性期、陰性症状が目立つ休息期、徐々に陽性・陰性症状は治まるが認知機能障害の残る回復期を経て、寛解期に至るといわれています。
まだ回復途上である時期に無理をして就労するとかえって症状がひどくなり、最悪、再発をしてしまい回復までに時間を要することもあるため注意が必要です。
主治医と体調についてよく話し合い許可を得た上で、就労移行支援なども活用しながら、無理のない仕事を探し、自分の症状について就職先にもよく説明をしておくことが大切です。
出典:こころの健康情報局 すまいるナビゲーター「病気の経過と症状は?」
統合失調症が仕事に与える影響
統合失調症は寛解に至ったとしても、服薬治療をきちんと続けておかないと再発しやすくなったり、疲れが溜まることで症状をぶり返しやすくなったりする病気です。
症状の中でも、仕事に影響を与えやすいものは集中しにくさややる気の低下、疲れやすさなどの3つです。これらの症状がどのように仕事に影響を与えるのかを以下に説明していますので、早速みていきましょう。
集中しづらい
寛解期に達することで、幻覚や妄想などの陽性症状、注意や集中力の低下といった認知機能障害はだんだんと気にならなくなります。
しかし、体調の波によって疲れている時などは幻聴が聞こえたり、周囲の人が自分を批難しているように感じたり、周囲の音が気になったりすることは起こり得ます。
そのため、体調によっては長時間の会議やミーティング、デスクワークなどの仕事が難しくなることがあるでしょう。
やる気が低下しやすい
陰性症状であるやる気の低下も、上記の陽性症状や認知機能障害と同様にその日の体調の波に左右されます。症状が統合失調症由来のものであると職場に理解されていないと、単に「怠けている」、「甘えている」と捉えられてしまい、評価が下がることになりかねないため注意が必要です。
仕事内容に関心が持てない、期限のある仕事になかなか取り掛かることができない、締め切りを守れず超過してしまうなどで仕事に支障をきたすことがあります。
疲れやすい
統合失調症が寛解に至るまでには短くとも半年〜1年、長くて2〜3年を要します。療養中は自宅で静養していることが多いため、いきなり働きだすと、疲れを感じる人が多いものです。
特に、陽性症状や認知機能障害により周囲の物や人の刺激に敏感になっていると、それらの刺激を振り切って仕事に集中するために、普通の人よりも多くのエネルギーを費やすため、知らず知らずのうちに疲れを溜め込んでいることがあります。
出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「精神疾患の早期発見・治療の重要性」
統合失調症の方の仕事の選び方
統合失調症の人が就労を目指そうと思うと、まず一般雇用と障害者雇用、オープン・クローズ就労のうちどちらを選ぶかといった問題が生じます。
オープン就労とは、疾患があることを職場に開示し就労することをいいます。疾患を開示せず就労するのがクローズ就労です。一般雇用はオープン・クローズ就労どちらも可能ですが、障害者雇用は必然的にオープン就労をすることになります。
就職活動のゴールは採用されることではなく、あくまで職場に定着して仕事ができることなので、長く働き続けるためにはどういった選択をすべきかを考えて意思決定をしなければなりません。
職場の定着を目指すなら、理解がある環境か、特性に合った仕事か、時短勤務が可能かなどの視点から職場を選ぶと良いでしょう。
出典:厚生労働省「障害者雇用対策」
理解がある環境を選ぶ
統合失調症への理解がある職場を選ぶことは大切です。上記の仕事の選び方でいうと、障害者雇用が最も疾患への理解がある職場を探しやすくなります。次いで、一般雇用のオープン就労、一般雇用のクローズ就労と職場の理解度には差がつくでしょう。
特性に合った仕事を選ぶ
統合失調症の患者は環境の刺激に弱い、やる気や集中力が続きにくい、細かな判断を求められる仕事は苦手であるといった特徴を持ちます。こうした特性とマッチする仕事を選ぶことで、就労後のミスマッチを防ぐことができます。
時短勤務可能な職場を選ぶ
一般雇用のフルタイム勤務であると難しいですが、パート就労であれば短時間勤務が可能です。その他、元々いた職場にオープン就労で時短勤務を申請し、復職する人もいます。障害者雇用で1日6時間以上の勤務が可能である場合も、時短勤務が可能です。
統合失調症の方に向いている仕事
統合失調症の人に向いている仕事の特徴は、接客業のような対人での複雑なコミュニケーションがなく、働く場や時間を自由に選ぶことができ、時に疾患によるインスピレーションや独創性を活かすことのできる仕事です。
持ち前の細やかさも、仕事に活かすことができます。臨機応変さが求められる仕事よりは、同じ作業の繰り返しができるものの方が向いています。
ただし、上記はあくまで一例であり、個人の向き不向きはあります。以下を参考に、自分に合っていそうなものがないかを探すヒントにしてみてください。
商品管理
商品管理や在庫管理は、統合失調症の人に向いている仕事の1つです。商品管理では、スーパーやドラッグストア、家電店、洋服店などで商品の在庫や入荷した商品の確認、棚卸しなどを行います。
大雑把で細かいことを気にしない人よりは、繊細で、むしろ細かいことが気になるくらいの人が向いている仕事です。統合失調症の人は、さまざまな物事に注意が向き、細やかな人が多いので適任といえます。
軽作業
軽作業とは、倉庫や工場などで荷物を運んだり、仕分けをしたり、梱包したりする仕事のことをいいます。よく、軽い物を持ち運ぶイメージを持つ人がいますが、これは間違いです。
人と接してコミュニケーションを取りながらというよりは、1人で黙々と作業をこなしていくことが多いため、刺激が少ない場で仕事ができるという意味で、統合失調症の人にも向いている仕事であるといえます。
製造業
製造業とは、材料ないし部品を加工・組み立てした製品を製造し販売する仕事のことをいいます。決められたポジションにつき、黙々と作業をすることが多いため、軽作業と同様に接客といった人と関わる仕事が苦手な人でもこなすことができます。
また、部品の組み立てや作り方を一通り覚えれば作業ができるため、煩雑なマニュアルを記憶するのが苦手という人でも取り組むことができる点が魅力的です。
事務職
事務職とは、書類の作成や処理、ファイリング、整理、データ入力、電話応対、来客対応などの業務を全体的に担う仕事をいいます。一口に事務職といっても、一般事務や営業事務、経理事務、学校事務、医療事務など分野がさまざまあるのが特徴です。
事務仕事の中でも書類作成やデータ入力などは統合失調症の人におすすめです。体力に自信のない人でも挑戦ができ、パターン化した仕事をこなせれば良いので、心身の負担を少なく働くことができます。
イラストレーター
イラストレーターとは、雑誌やゲームなどの媒体において、クライアントからイラスト制作の仕事を受け、趣旨に合うイラストを制作し提供する仕事をいいます。
統合失調症の人は、幻覚や妄想などの普通の人では体験し得ないような世界を経験します。これらの体験を創作やイメージに落とし込むことができれば、誰にも負けないオリジナリティを発揮できるでしょう。
出典:読売新聞オンライン「魔法の絵 心に晴れ間 統合失調症 周囲の支え 別府在住・小島さん大分で個展」
Webデザイナー
Webデザイナーとはその名の通り、Webサイトのデザインを担当し、制作する人を指します。Webデザイナーで就労移行支援を活用すれば、就職のためのカリキュラムを受けることができ、ある程度のスキルを身につけることが可能です。
パソコンを使うことに抵抗がなく、新しいことに取り組むことが好きで、クライアントのニーズを組んで制作のできる人に向いています。統合失調症の美的感覚も活かすことができます。
リモートワーク
リモートワークとは、オフィスに出社せずに、会社以外の場所で遠隔で仕事をすることをいいます。働く場が自宅であるとは限らないため、リモートワークとは区別されます。
リモートワークでは比較的、働く場の自由があるため、自分の苦手な騒音や光の刺激がある場を避けることができます。落ち着いた環境で安心して仕事ができる点が魅力です。
ポスティング
ポスティングとは、チラシや手紙などをポストへ投函する仕事をいいます。空いた時間や入れる時にだけ働くことができるため、体調に波があり、仕事の時間が決まっていると負担であるという人にもおすすめです。
徒歩や自転車などで作業を行うため、働きながら体力作りも行うことができ、一石二鳥です。1人で働くことができるため、コミュニケーションに不安があっても問題ありません。
統合失調症の方に向いていない仕事
統合失調症の人に向いていないのは、働くタイミングや時間が選べない、対人スキルが求められる、高度な認知機能処理が求められる、精神的なタフさが求められるなどの特徴に当てはまる仕事です。
具体的には医療系やコンサル業、接客業などの職種が当てはまります。どうして向いていないのかも含めて下記に詳しく解説していますので、早速確認していきましょう。
医療系
怪我や病気で苦しむ人を治療し、その回復を促す医療系の仕事は夜勤で仕事をしなければならないことが多いです。体力を必要とするため統合失調症の人には不向きといえます。
また、刻一刻と変化する患者の体調の変化を読み取り、臨機応変に判断・行動をしなければなりません。これらの負担の大きさから、統合失調症の人には医療系の仕事はおすすめしません。
コンサル業
コンサル業とは、クライアントである企業の経営課題を明らかにし、課題を解決するための戦略を立案・提言することによって企業の成長や業績改善を支援する仕事です。
クラアントと密にコミュニケーションをとりながら、企業の全体像を俯瞰してみて課題解決に導かねばならず、対人スキルと認知機能の両方が求められます。苦手とする能力を2つも求められるため、統合失調症の人にはハードルが高い仕事といえます。
接客業
接客業とは、顧客と直接コミュニケーションをとりながら商品やサービスを販売する仕事全般をいいます。飲食店のホールスタッフやアパレルショップの販売員、ホテルのフロントなど業種はさまざまです。
ノルマが課されることもありますし、時に顧客からクレームを受け直接対応しなければならなくなることもしばしば起こります。精神的にタフでないと続かない仕事であり、対人スキルも求められる点において統合失調症の人には不向きであるといえます。
統合失調症の方が仕事を続けるためのポイント
統合失調症の人が仕事を続けるためには、病気により日々変化する体調と気分をよくモニタリングし、変化があれば必要な対処をとることが大切です。
具体的には服薬や通院を怠らないこと、生活リズムを整えること、環境の変化に注意すること、病気の前兆を把握することなどが役立ちます。また、自身の体調管理はカウンセリングを受けることでサポートしてもらうと良いでしょう。
面倒くさがらずにセルフケアを継続することで、症状が再発したり悪化したりするのを未然に防止できます。
服薬・通院を怠らない
寛解の状態に至ったからといって、服薬や通院を自己判断で止めないようにしてください。
統合失調症は再発をしやすい疾患として知られています。また、一度再発をすると、初発の時よりも症状が酷くなりやすいという特徴を持っています。服薬中断がたった1〜10日間だったとしても、入院リスクは2倍に跳ね上がります。
就労すると仕事に追われてつい服薬を忘れてしまいがちです。忘れてしまわないためにも、スマホのリマインダーやピルケースへの収納などで気がつくように工夫をしてみましょう。
通院頻度が負担になっているようであればその旨を主治医に相談し、忙しい時は間隔を空けて通院するなどして対処することもできます。
出典:こころの健康情報局 すまいるナビゲーター 統合失調症「服薬について」
定期的にカウンセリングを受ける
主治医との診察で相談したいことがあるが、診察時間だけでは話しきれないという人には、カウンセリングを受けてみることをおすすめします。カウンセラーは主治医との間に入って伝えたいことを端的にまとめて伝えてくれます。
その他、病気の理解であったり、服薬治療や生活リズムを整えることであったり、他職種と連携して復職や就労に向けたサポートに繋いだりすることもカウンセラーは得意です。自分にしか理解できない病気の苦しみを吐き出し、前向きに生活していくための支えになってくれます。
医療機関でのカウンセリングは主治医の許可が出た後に予約制で行うことが多いため、希望がある場合は、早めに診察でその旨を伝えるようにしてみてください。
出典:NPO法人ステップス 統合失調症の認知行動療法カウンセリング
生活リズムを整える
統合失調症に限らず、精神疾患全般にいえることですが、生活リズムを整えることは治療において重要です。
昼に起きて夜中に眠る生活だと、日中にセロトニンという脳の神経伝達物質が十分に分泌されにくくなります。セロトニンは別名幸せホルモンとも呼ばれており、精神の安定にとても重要なホルモンです。
セロトニンは夜間になるとメラトニンという眠気を促すホルモンに変化するといわれています。日中にセロトニンが十分に分泌されないと、夜の睡眠の質も悪くなりやすいのです。
生活リズムを整えるためには、3食きちんと食べてリズムを作ると良いといわれています。また、日中に陽の光を浴びて散歩といった軽めのリズム運動ができると、セロトニンが分泌されやすくなることで知られています。
出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
環境の変化に注意する
統合失調症の患者にとって、例えプラスの変化であったとしても、環境が変わることは大きなストレスになります。就職や昇進、異動などはもちろん、結婚、出産、育児、介護などのプライベートなイベントも再発の一因になり得ます。
環境の変化があらかじめ分かっていれば、準備期間を設けることも対処法の1つです。その他、普段以上に睡眠や休息の時間を十分にとり、心身に疲労を溜め込まないことが大切です。
また、過去に環境の変化があったときにはどのように対処したかを振り返り、今回も活用できそうなものがあれば、ピックアップして使用することもできます。医師やカウンセラーともよく相談し、対処法を検討しておきましょう。
出典:こころシェア 統合失調症と双極性障害に関する情報サイト
症状の前兆を把握しておく
統合失調症患者は、幻覚や妄想などの急性期の症状が現れる前触れのサインが現れる「前兆期」を経験することがあります。前兆のサインとしてよく挙げられるのは、眠れないことや音や光に敏感になること、焦りの気持ちや不安が強くなることなどです。
前兆期に早めに気づき、かかりつけ医に相談しておくことで、その後の再発を予防したり、症状の悪化を防いだりすることができます。もし、「何だか体調がおかしいな」と感じたら、ささいな変化でもすぐに医師に相談するようにしましょう。
医師に相談する際は、自分の体調や気分などを、スマホのアプリやメモ帳などで記録していくと、コミュニケーションがスムーズです。
出典:京都府精神保健福祉総合センター 心の健康のためのサービスガイド
就労移行支援を利用するメリット・デメリット
就労移行支援とは、一般雇用へ向けた知識・スキル獲得や職場定着を支援する「就労移行支援」と、一般雇用が難しい場合に障害者雇用、就労継続支援A型(雇用型)や就労継続支援B型(非雇用型)などの働く機会を提供し「就労継続支援」を行う民間サービスのことをいいます。
一般雇用を希望し、知識やスキルの獲得により本人に合った職場に定着できることが見込まれる65歳未満の人であれば、誰でも利用することができるのが魅力です。
就労移行支援を利用することで上記のさまざまなメリットが得られる一方で、通う期間や料金の不安の声もよく挙がります。就労移行支援を利用するメリットとデメリットを下記にまとめていますので、参考にしてみてください。
出典:厚生労働省「就労移行支援事業」
就労移行支援を利用するメリット
体調や生活リズムに不安がある人でも、週2〜3日の短時間から事業所に通い、徐々に通う日数や時間を増やして通いに慣れることが可能です。就職後の通勤の練習にもなります。
また、就労移行支援では挨拶や身だしなみ、名刺交換といった基本的なビジネスマナーをはじめ、ソーシャルスキルトレーニングによるコミュニケーション訓練、履歴書の書き方や面接の練習、プログラミングや会計など職種に特化したプログラムを経験することができます。
上記のサポートを受ける中で、徐々に自分の強みや弱みに気づくことができます。苦手な仕事内容については、どのような配慮を受けると良いのか、あるいはどのように工夫すると良いのかを考える機会になります。
就労移行支援を利用するデメリット
就労移行支援を利用するデメリットとしては、早く就職したいのに事業所に通わねばならない期間が長すぎる点や、利用料が高額になってしまう点が挙げられます。
また、上記の理由以外にも、就労移行支援やハローワークなどの支援を受けるには、まだ利用者の準備が足りていないケースが多いことが新宿区への聞き取り調査で分かりました。
学研のWell-being LABOについて
学研のWell-being LABOが就労移行支援事業所ではなく、生活訓練事業所である理由は、こうしたデメリットへの懸念の他、企業への「就労」ありきの社会参加ではなく、その人らしさを活かした社会参加を実現させたいという想いからです。
Well-being LABOは、公認心理師監修のオーダーメイドプログラムで、あなたにとっての「Well-being(良い状態)」の実現を目指します。「何だかつまらない」「うまくいかない」と感じてしまうような、会社や社会の枠組みから逆算された社会参加や、企業への就労ありきの社会参加ではない、その人らしさ(特性・能力等)を活かした社会参加の実現を、利用者様と一緒に試行錯誤しながら支援しております。
まとめ
このコラムでは、統合失調症の方に向いている仕事や向いていない仕事、仕事選びのポイントや仕事を続けるためのポイントについて解説しました。
統合失調症を抱える方にとって、仕事選びは特に重要です。統合失調症の方やその家族は、このコラムの内容をご確認いただくことで、適切な仕事を見つける参考としてください。
また、統合失調症に興味・関心のある方や、精神疾患との関わりがある方にとっても、このコラムが仕事と精神疾患との関係について深く理解するための貴重な情報源となるでしょう。
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